第2章 野菜のおいしさに関する検討結果
V ダイコンの官能評価と機器分析
1 ダイコンの嗜好型官能評価
<評価者の特性>
4.3つの比較に代表される嗜好の基本構造
 7段階評価法によるステートメントへの同意度を図8に示す。


図8.評価者のダイコンに関するステートメントへの同意度平均値

 図9に度数分布を示す。


図9.同意度の度数分布

 評価者はダイコンの嗜好度が高く、おでんやみそ汁など和風の食べ方を好んでいる。また、辛みのあるものを好んでいるが、甘味については好むか好まないかにはっきり分かれていることが分かる。従ってダイコンを甘くすれば、喜ぶ人と失望する人がいることを考慮すべきである。

 甘味はうま味をマスクする。しかもニンジンやキャベツでも示したように出汁やうま味への気づきの感度を鈍くする。糖の摂取量も増えることを考えると、安易に甘味を増すことへの責任も考える必要がある。実際の評価ではD は甘味は少なかったが、うま味や滋味があることによって高く評価されたことからも、糖分を増すことだけでなく、より微妙な味を大切にすべきである。ここではアミノ酸やミネラルしか分析していないが、これらが少ない方が他の有効成分が多いとは考えにくい。昔ながらの大蔵のようなダイコンを常食にした場合に比べて、僅かずつであっても重要な成分が減少していくと、それが積み重なって気づかないうちに、重要な成分が稀薄になる危険がある。そうかといって、全ての成分を増せば味が強すぎて食せない。そのなかで何が大切かを考えなければならない。

<評価者の要望>
 ダイコンについて思うことを自由に記入してもらった結果を列記する。
  • しっかりと辛みのあるのが好き
  • もっと辛味があってもよい
  • 辛みが少なく甘くなっている
  • 甘味も辛みもぼけている感じがある。食べやすくはなっているがはっきりした味もあるとよい
  • 大根本来の香りが少ない
  • カブのように密度が細かいものがあるが不自然
  • おろしにすると水ばかりになる
  • 水っぽいダイコンが多いような気がする
  • 葉がついていないが、葉がほしいと思う
  • 果物のような甘味をもった大根がほしい
  • サラダ用と煮物用と用途別にあるといい
  • おろしとしてしか食べない
  • 青首しか手に入らない
  • 料理によって使い分けたいが、青首が圧倒的で不便
  • いろいろな大根がでている
  • 最近はバラエティが豊富だが、用途が限定されるものも多く購入しにくい
  • 漬け物用の亀戸大根、練馬大根、三浦大根がなつかしく、大蔵大根ももっと出回ってほしい
  • 紅芯大根や黒大根など新しい品種の食べ方提案(レシピ)を望む
  • 非常に肌のきれいな大根しか売られていないが、本当の取れたては手に入らない
  • 全体的に昔に比べると堅くなっている
  • 煮て食べるとき煮くずれないかたい大根がほしい
  • 煮くずれてもとろけないような昔ながらの大根がほしい
  • 大きすぎて食べきれないので、味よりもサイズで選んでしまいがち
  • 昔に比べて逞しさがなく、ビタミンや機能性成分が少なくなっていないか気になる
 これらの意見や要望はそれぞれもっともなことではあるが、それをすべて叶えることは不可能なことも明らかである。一方を叶えれば他方は不満となる排反事象や、流通・販売を無視しては実行不可能なこともある。昔ながらのダイコンが食べたいといっても実際にそれらしきものがおいしいと評価されるとは限らないこともここでは示された。多様な要求に振り回されるだけではダイコンはよくならない。これは前に述べたニンジン、キャベツと基本的に同じ構造の問題に帰着する。


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