第2章 検討内容の総括
野菜茶業研究所 堀江 秀樹
1 前年度までの検討経過と21年度の方向
 野菜のおいしさの検討に関しては、平成18、19年度の知識集約型産業創造対策事業「野菜のおいしさ検討委員会」の検討成果を継承し、20年度以降は野菜等健康食生活協議会の委託を受けて、「野菜のおいしさ検討部会」として活動している。検討委員会及び部会においては、野菜のおいしさに関する科学的な指標(物差し)の設定を目的に、官能評価と理化学的な評価の組み合わせを行ってきた。20年度までの結果を要約する。

(1) キュウリ
 糖含量の高いものが好まれることが示され、血糖センサーによる簡易評価法も提案された。また、保存期間の長いものの方が歯ごたえが増し、この現象は野菜茶研開発の食感評価法Crispness Index に反映されることが示された(18、19年度)。ただし、キュウリのおいしさ、あるいは糖含量は収穫までの天候に左右されることが明らかになった。これまでに得られた結果を、栽培地における天候を考慮して考察し直せば、おいしさ指標について一定の結論が得られるものと期待できる。

(2) ホウレンソウ
 茹でたホウレンソウのおいしさには甘味が関与し、糖含量の高いものの評価が高かった。アクっぽさに関しては、シュウ酸が関係するものと考えられていたが、シュウ酸含量の低いものがアクっぽくないという関係は認められなかった(18年度)。一方、ホウレンソウは大きな株にした方が旨いという考え方もある。MS級とL級の2種類のホウレンソウを比較したところ、油炒めでは、L級の方がえぐみが強く、評価が低くなった。季節変動等も考慮しておいしさを論じる必要が明らかになった(19年度)。なお、ホウレンソウの旬は冬季であり、冬季に検討を行うべきであったが、年度末の取りまとめに合わせた検討時期の選定には問題があったと考えられる。

(3) ニンジン
 若年者をパネルとして生食及び煮物で評価した場合、「国分ニンジン」(長ニンジン)のようにニンジンらしさの強いものが嫌われる傾向にあった。このニンジンは官能評価では甘さについても低く評価されるが、成分的には糖含量や糖度が低いわけではなかった。「国分ニンジン」は水分含量が低く、また形成層や内層の破断強度が高かった(18年度)。五寸ニンジンを比較した結果、生食の場合「向陽2号」は、他の2品種よりも甘味、うま味が低く評価されたが、分析の結果、糖含量や糖度が低いわけではなかった(19年度)。3種類のニンジンについて店頭で試食販売した結果、「ひとみ五寸」を購入する人が最も多く、その購入理由としては「甘さ」とされた。ただし予備的な調査の結果では3種類のニンジンの糖含量に差はなかった(19年度)。「国分ニンジン」のような個性的な野菜の評価には、若年者よりも食経験豊富な人をパネルとした方がよいとの考えから、社会人パネルによりニンジンの煮物の評価を行った。しかしながら「国分ニンジン」については、社会人パネルの場合も、18年度に行った若年者での結果同様、平均値としては低く評価された(20年度)。官能評価によるうま味については、グルタミン酸や出汁由来のイノシン酸の分析値のみからは説明できず、まだ未解明の成分や食感がおいしさに寄与している可能性が指摘された。(20年度)。さらに20年度はニンジン臭に関する機器分析も試み、ニンジン臭とテルペン類の関係が示唆された。

(4) レタス
 品種と熟度の異なるレタスを生食で官能評価したところ、評価結果が非常にばらつき、喫食部位によりレタスの品質が異なったものと推察された。味の評価と糖含量の間に相関関係はなく、いっぽうで苦味の強いものが嫌われる傾向にあった(19年度)。部位によって味や食感が異なるため、レタスは非常に扱いづらい材料である。苦味や食感の機器評価法については、現在国内でも開発が進みつつあるが、依頼分析等での対応は困難である。

(5) ナス
 「筑陽」と「千両2号」について煮物で比較したところ、前者を好む人は、軟らかく風味の弱いところを好み、後者を好む人は風味が強く噛みごたえがあるところを好んだ(19年度)。「巾着」等4種類のナスについて、調理法と官能評価の関係を解析した。生試料では糖含量と甘味、クロロゲン酸含量と渋味の関係は明確には出なかった。ナスを加熱すると物性が大きく変化し、成分変化はほとんどないにも関わらず、味の感じ方は変わった。物理性(食感)評価の重要性が示唆されるものの、現在のところ適切な評価方法が確立されていない(20年度)。

(6) ピーマン
 ピーマンは子供の好まない野菜である。成人女性を対象にアンケート調査の結果、ピーマン好きの人には苦味が肯定的にとらえられ、ピーマン嫌いの人は苦味を嫌いな要因としている(20年度)。さらに、調理法を変えて官能評価した場合、炒める、揚げるといった調理法が好まれやすいことが明らかになった(20年度)。ピーマン嫌いを減らすには苦味の抑制が鍵となるが、苦味成分については解明されていない。

(7) ダイコン
 4品種について、生とおかか煮で評価した。生では好まれなかった辛味の強い「夢岬」はおかか煮にすると最も評価が高かった(19年度)。4品種の煮物について官能評価した結果、「大蔵」はグルタミン酸やミネラルが多くうま味や滋味の評価が高かった。「本三浦」については、食感や苦味に特徴があり評価が分かれた(20年度)。生食での辛味については、イソチオシアネートの関与が考えられているが、本物質については依頼分析できる機関がない。さらにダイコンの苦味物質については未解明であり、調理されたダイコンの食感評価法については検討の余地を残す。

(8) キャベツ
 3品種の煮物について官能評価した。「あまだま」の糖含量が高く、「甘い」と評価された(20年度)。カットキャベツの食感評価法については、やっと開発が進みつつある状況であり、生食よりも多くの要素に左右されると考えられる煮物について、おいしさ指標としての分析項目に関する文献はほとんどない。

 これを受けて21年度の検討内容は次のように整理した。

 キュウリ及びホウレンソウについては、糖含量等おいしさの指標候補は明らかになってきたものの、目的とする試料の供給が困難なために本年度は検討しない。レタス、ナス、ダイコン、キャベツについては、官能評価に対応した機器分析をいかに行うかについて、基礎的な知見が不足しているため、本年度の検討は取りやめた。

 そこで、21年度はこれまで対象とした野菜の中からニンジンとピーマンについてさらに検討を深めた。

◇ニンジン
 煮物の場合には、品質指標の策定は現状では困難と考える。ただし、生食の場合には、「ひとみ五寸」のような軟らかく、特有の風味が少なく、水分の多いものが好まれることは19年度の店頭での試食販売調査結果からも得られている。そこで、サラダ等生食に向くニンジンについて検討を継続する。ただし、とりまとめ時期に間に合わせるため、これまでとは異なり調査は夏に行う。また、20年度から検討を開始した香気分析の結果、ニンジン臭の強い品種ではテルペン類が多く検出された。本年度、はニンジンを加熱することによる匂いの変動を解析し、基礎的な知見を得たい。

◇ピーマン
 鍵となる苦味成分は解明されていないものの、子供の嫌いな野菜の代表的なものなので、いかにして子供に食べてもらうかという見地から検討は続行する。20年度は大人を対象に官能評価したので、嫌いな割合が高い児童を対象に官能評価のみを行う。さらにピーマンの匂いについては、20年度の成人女性を対象としたアンケート調査においては、嫌われる大きな要因とは言い難かったが、子供に限定すれば嫌われる要素であると推測した。そこで、ピーマンの匂いについて官能評価と機器分析により解析し、ピーマン臭を抑制する方法を探る。

 さらにこれまで扱わなかった、下記の野菜についても検討を試みた。

◇タマネギ
 すでに多くの品種が開発されているにも関わらず、主産地では品種の単一化が進みつつある。こうした状況のもと消費者の多様化嗜好に対応して、品種別に品質の特徴を探る検討を試みた。おいしさに関しての比較は少ないが、品質に関する論文情報が多いので、あらかじめ文献を整理した上で、官能評価及び機器分析を行う。

◇スイカ
 一部の店舗では、糖度表示して販売されている。どの程度の糖度があれば、消費者は甘く感じるのか実態を調査する。さらに糖度表示についての販売側の考え方を聞き取り調査する。これらの結果から、糖度をおいしさの指標のひとつとして表示する可能を探る。


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