第2章 検討内容の総括
野菜茶業研究所 堀江 秀樹
2 21年度の検討結果の要約

(1) タマネギ

 北海道産のタマネギ3品種、うち1品種については慣行農法のもの以外に有機栽培したものの計4試料について、10月23日に官能評価を実施した。生食においては、辛味や刺激が強いために刺激や野性味の少ないものがよいと評価される傾向にあった。1品種については、慣行栽培と有機栽培の試料をクリームコンポートにして官能比較した。その結果、有機栽培の方が味に深みがあり明確によいと評価された。

 上記4試料を含むタマネギ試料について、遊離アミノ酸、ミネラル類、糖、ピルビン酸生成量、ポリフェノール、糖度、水分について依頼分析した。生食では辛味の寄与が大きく、辛味の指標としてピルビン酸の生成量が使えることが示唆された。糖度は、官能評価での甘味や糖含量とは相関せず、水分含量と負の相関関係が認められた。クリームコンポートとして官能評価した際には、有機栽培のものが慣行栽培のものより優れると評されたが、分析データからその要因を推察することはできなかった。

(2)  ニンジン

ア.ニンジンの官能評価と機器分析
 スティック状に調製したニンジン3品種について、5月に生で官能評価し、同じ試料について物性と糖および水分の含量を調べた。これまで冬季に行った試験結果から「ひとみ五寸」が軟らかく、ジューシーで甘いと評価されることを期待したが、結果は逆で、軟らかく、ジューシーで甘く、おいしいと評価されたのは「愛紅」であった。「愛紅」は甘味が強いと評価されたが、糖度や糖含量が高いわけではなく、軟らかく、ジューシーな物性が官能的な甘味に影響しているものと考察された。水分が多く、軟らかいニンジンは生食にも適するものと考察される。またこれらの物性については、簡易な機器評価法の開発は容易と期待できる。ただし、生食に適したニンジンの生産には適切な品種を選ぶだけでなく、適した作型を選定することが重要である。

イ.ニンジンの匂い特性
 ニンジン臭さはニンジンの嗜好にとって重要な要素である。「向陽2号」について生試料と加熱試料の間で、官能及び機器により匂い特性を比較した。生では「パセリ様」、「青臭い」「木のにおい」「花様の」「ツンツンする」「砂糖のような甘さ」で特徴づけられ、加熱ニンジンでは重くねっとりした甘味を感じる香りとなることが官能評価によって示された。このような試料についてGC-MS-Olfactometryにより解析したところ、加熱ニンジンで寄与が高い成分として(E, E )-2,4-decadienalおよびα-sabololが検出された。

 東洋系の「金時ニンジン」では官能評価の結果、「ニンジンらしいにおい」が弱く、「カボチャのような甘いにおい」が強いと評価された。このことはGC-MSOlfactometryによるアロマグラムからも確認された。「金時ニンジン」がお正月料理に用いられる要因のひとつとして、ニンジンらしい香りが弱く、甘い香りが強いことも関係するものと考察された。

(3) ピーマン

ア.調理方法による嗜好性の向上

 ピーマンは子供に嫌われる野菜なので、小学生を対象にアンケート調査と官能評価を実施し、ピーマン嫌いを改善する方法を探った。ピーマンは45%の子供に嫌われ、特に苦味とにおいが嫌われることを明らかにした。調理方法として、ピーマンのみのソテー、肉入りソテー、じゃこ煮の3種類について官能評価した。ピーマンのみのソテーに比べて、肉入りソテーやじゃこ煮にすることにより、ピーマン臭さや苦味が緩和し評価は向上した。調理方法を工夫することによって、「野菜嫌い」を改善することは可能と考えられる(ただし、ピーマンを非常に嫌う者に対しては、ピーマン嫌いを緩和する有効な調理法を提示できなかった)。

イ.ピーマンの香り
 同一圃場で採取した緑のピーマンとさらに熟した赤いピーマンを材料として、香りの官能評価及び機器分析を行った。緑ピーマンは青臭く、苦味を強く感じさせる匂いであり、赤ピーマンはパプリカ様でもわっとした匂いを強く感じさせた。GC-MSで分析したところ、(Z )-3-へキセノールと(E )-2-ヘキセナールの含有率に特徴が認められた。前者は青葉を感じさせる青臭い匂いであり、緑ピーマンに多い。一方、後者は果実の香りであり、赤ピーマンに多く、それぞれのピーマンの匂いの特徴と一致した。ピーマン臭さに関係するとされる2-メトキシ-3-イソブチルピラジンについては、緑ピーマンより少ないものの赤ピーマンにも含まれていた。さらに加熱によっても、この物質は減少しなかった。これらの知見から、ピーマン嫌いな人はこの匂いに敏感であるため、赤ピーマンも食べられない可能性や、加熱によってピーマン臭さを抑えるのが難しいことが示唆された。

(4) スイカ

 糖度を指標としたスイカの甘味表示の可能性を探るため、店頭で糖度の異なるスイカを一般の方に試食してもらい、試食して感じた甘味の強さや甘味表示があれば購入の参考にするか等についてアンケート調査した。その結果、糖度10のスイカは普通の甘さ、糖度12のスイカは甘いとされ、85%の方からは糖度12の方がおいしいと評価された。また、甘味表示があれば購入の参考にするという方が85%、甘味表示を実施してほしいという方が95%あり、甘味が保証されれば1〜3割高くても許容できるという方が大半を占めた。これらのことから、店頭において糖度に基づいた甘味表示と価格差の設定を検討すべきと考察した。


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