(1) キュウリ
ブルームレス台木が普及してからまずくなったとよく言われる。しかしながら、自根やブルーム台木を用いた方がおいしいという科学的知見はない。糖含量がおいしさの重要な指標になる。また、収穫後物性は急激に変化し、冷蔵庫で保存すると、ねっとりした食感からバリバリした食感に変化する。糖含量は天候に影響されやすいため、好天の日の翌日収穫されたキュウリを収穫当日(または翌日まで)に販売できれば、食味や食感の上で、これまでの市場流通品とは明らかに異なる品質(ねっとりした食感と甘さに特徴)のものを消費者に届けることが可能になる。このようなキュウリは、気象条件が合わないと収穫できないため、直売所等産直流通における目玉商品のひとつとして期待される。品質のチェックには、血糖センサー(糖尿病患者自身が血液中のグルコースを測定する装置)などの利用が可能である。
(2) ホウレンソウ
冬季にショ糖を蓄積し甘くなる。いっぽう、えぐ味はシュウ酸によるものとされるが、シュウ酸含量とえぐ味には直接的な相関関係は成立しない。流通現場においては、ショ糖含量の簡易定量は困難なので、栽培法などを糖度によってモニターし、この結果を差別化販売に利用できるものと期待される。そのためには、葉菜類では果菜類と比べて汁液の採取が困難なので、汁液の採取方法など糖度測定法の共通化をはかる必要がある。
(3) ニンジン
生食が必ずしも一般的とはいえないが、生食の場合には、肉質が軟らかく多汁なものが好まれる。これらの項目については、物性や水分含量等の測定により数値比較は可能と期待され、「サラダにも使えるニンジン」等、店頭表示することは比較的容易と考えられる。いっぽう煮物としては、パネルの嗜好性や、出汁の種類によって評価が分かれた。ニンジンの調理適性とその評価法については今後基礎的な検討を要する。
(4) レタス
苦味の強いものは嫌われる傾向にある。ようやく苦味成分についての知見が得られるようにはなったものの、現状、ごく一部の研究機関でしか分析できない。品種間差や熟度による差等、研究の進展が待たれる。さらに苦味成分の分布や食感についても部位により大きく異なるため、試料の調製を含めた官能評価や理化学評価について、レタスに適した方法論の検討も必要である。
(5) ナス
サラダ用品種の特性評価については、検討事例(神奈川県農業技術センター研究報告、2009)があるので参照できる。ナスは通常加熱調理して食するが、加熱すると成分変化がないにも関わらず、甘味が強まる場合がある。その要因については、食感の変化が寄与している可能性を指摘したが、そのメカニズムを明らかにしないと、成分分析結果だけからは加熱ナスのおいしさは推定できない。加熱による肉質変化に関する基礎的な検討が必要である。
(6) ピーマン
ピーマン臭に関する成分(2-メトキシ-3-イソブチルピラジン)は加熱しても減少しないことが明らかになった。一方で、調理方法の選択によって、ある程度嗜好性を向上させることができることも明かになった。しかしながら、いかに調理してもピーマンを食べられない学童もおり、嫌われる要因である苦味を抑制するには、標的とする苦味成分の解明がポイントとなる。現状では、苦味成分については未だに解明されていない。さらに、香気成分も含め、おいしさに関する成分について、品種との間での比較がほとんどなされていない。ピーマンのおいしさにはどのような成分が関わるのか基礎的研究が待たれる。
(7) ダイコン
辛味成分(イソチオシアネート)が明らかにされているので、生食における辛味を中心とした検討事例が多い。辛味の強いおろし用ダイコンの選定は現行の技術で十分可能であるが、依頼分析を受けられる機関がない。煮物の場合は、嫌な味として苦味が指摘されるが、苦味成分は不明である。煮くずれしやすさ等の物性も重要であるが、生ダイコンの硬さの評価法を除き、検討事例が乏しい。出汁成分のしみこみ等、基礎研究の充実が待たれる。
(8) キャベツ
カットキャベツの食感評価法について、複数の研究グループにおいて検討が進みつつある。新たに開発された手法を取り入れれば、カットキャベツとしてのおいしさ評価が可能になるものと期待できる。一方で加熱調理については、文献的な知見が乏しい。
(9) タマネギ
生食では、辛味が強く感じられるため、辛味指標としてはピルビン酸の測定値が利用可能と期待できる。ただし、測定法が煩雑なため十分な精度で依頼分析できる機関がない。加熱時には、タマネギ由来の含硫化合物と出汁成分の相互作用によりコクが生じたり、加熱による香気成分の変化が期待されるが、分析の困難な成分も多いため、品種や栽培法との関係での解析は現状ではかなり難しいものと考えられる。サラダを想定した場合の、新タマネギの軟らかさなど、食感や触感の評価法の確立が今後現実的に取り組める課題である。その後、このような知見を基にして加熱調理との関連での評価法開発が待たれる。
(10) スイカ
糖度と甘さについては関係が認められ、カットフルーツとして販売する際に糖度表示があれば、消費者の選択の助けになる。糖度の場合は測定法も簡単であることから、甘さについて店頭表示に展開することは比較的容易と考えられる。ただしスイカの糖度は部位により異なるため、測定部位や測定方法、甘さの表示について統一の基準を設定しないと混乱を招く可能性がある。甘味だけでなく、食感もおいしさの重要な要素なので、今後はシャリ感など食感の客観的評価法の開発が望まれる。
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