第3章 官能評価に用いたタマネギの機器分析結果
野菜茶業研究所 堀江 秀樹
1 成分分析

(1) 分析用試料
官能評価に用いたもの
スーパー北もみじ(慣行栽培:A、有機栽培:B)、もみじ3号:C、早生7号:D、
その他参考値
天心、甘70、札幌黄

 これらの試料(10個)については、(財)日本食品分析センターに送り、依頼分析に供した。分析用試料調製は官能評価試験(10月23日)後、3日以内に行った。また、芽が出ている等明らかに異常な個体は今回の分析から除外した。

(2) 分析項目
 分析項目は文献調査の結果重要と考えられる項目について、日本食品分析センターと協議して選択した。主な分析項目と分析方法は下記の通りである。また、試料は、保護葉(皮)、根盤部、頭部を除いたものを分析に供した。

  1. 糖分析:50%エタノールで抽出後、濾液を濃縮乾固し、再度水に溶解したものを高速液体クロマトグラフィー(示差屈折計)で分析。
  2. ポリフェノール:50%エタノールで抽出し、フォーリン−チオカルト法で吸光度測定。検量線にはケルセチンを用いた。
  3. ピルビン酸:フードプロセッサーで予備破砕した試料をホモゲナイズし、水を加えて室温で30分放置後、5%過塩素酸を加えて定容。酵素法で分析。
  4. 水分:70℃、5時間乾燥後秤量。
  5. アミノ酸:アミノ酸自動分析計(日立)
  6. ミネラル:ナトリウム、カリウムは1%塩酸抽出液を原子吸光法、他は乾式灰化試料をICP発光分析。
  7. 糖度:ガーゼで搾った試料を屈折計を用いて測定。

(3) 官能評価結果との比較考察
 結果は表1に示した。

 生のタマネギの官能評価においては、辛味が最もパネルに意識されると想定される。本試験においては、辛味と相関が高いとされるピルビン酸の生成量について測定した。分析結果はA、CがB、Dよりも高い値を示した。官能評価の辛味についても、Dが低く、辛味の強さについてはピルビン酸生成量が関連するものと考察される。

 糖度や糖含量についても、A、Cが高かったが、生試料の甘味についてはDが高く、生で評価する場合には、単純に糖含量が甘味の指標とはならない。蒸し煮にした場合には、辛味の感じ方が弱まる分、試料A、Cの甘味を強く感じるように推察される。

 アミノ酸については、アルギニン含量の試料間差が大きい。アルギニン含量と官能評価の蒸し煮の場合の「味の力価」や「濃厚感」、「味がしっかりしている」という項 目の間で、相関関係が認められる。野菜においてアルギニン含量と味について考察された事例はほとんどないが、緑茶においては、アルギニンは玉露や上級煎茶に多く含まれ、上級茶独特のコクに寄与しているのではないかという意見もある。タマネギの味にアルギニンがどの程度寄与するのか、今後さらなる検討が必要である。

 グルタミン酸については、うま味やコクに寄与するものと期待されたが、試料間の含量の差は小さかった。

 ポリフェノールについては苦味評価との関係を期待した。最も苦味の弱い試料Dにおいて、ポリフェノール含量は低かったものの、全体に強い苦味が指摘された試料はなく、今回の試料間では、苦味評価やポリフェノール含量測定の重要性は低いものと考察される。

 糖度と糖含量の相関が高い野菜は多く、トマトやメロンなど糖度が高いものは甘い傾向にある。今回のタマネギ試料については、糖含量(果糖、ブドウ糖、ショ糖の合計量)と糖度の相関は低かった。一方で、糖度と水分含量には負の相関が認められた。

 ミネラルについては、リンは試料Dや「甘70」のような生食向きの品種において少なかった。リン酸イオンはえぐ味を示すという考え方もあるが、分析されたものはトータルのリンであり、必ずしもリン酸イオンと相関するとはいえないため、今後、水溶性のリン酸イオンを測定する等さらなる検討を要する。

 マンガンについても水道水の基準値は0.05ppmで、2価のマンガン水溶液はこの濃度でえぐ味を示す。タマネギ中には1ppm程度のマンガンが含まれるため、えぐ味に関係する可能性も否定はできない。ただし、茶浸出液中にもマンガンが1ppm程度存在するものの、マンガン由来のえぐ味はしない。この原因は水にマンガン塩を溶かした場合にはMn2+で存在するものの、茶浸出液中では有機酸等に配位した状態で存在するためと考えられている。タマネギにおいても、マンガンは組織中でクエン酸やリンゴ酸などが配位しているものと推定されるため、全量の分析値からえぐ味を推定することはできない。他の金属についても、存在状態によって呈味性は異なるものと推測される。現行の分析法では、金属の存在状態の解析は非常に困難であり、表1にはトータル量でしか示せなかった。このようなことから、リン酸やマンガンなど無機成分が野菜の味に影響する可能性はあるものの、これを明らかにするには、トータル量のみではなく、存在状態を反映した評価法の解析を進める必要がある。



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