(試料および方法)
官能評価と同じ「向陽2号」を用い、生および15分加熱試料として各5kgを処理した。粉砕したニンジンをペンタン:ジエチルエーテル=1:1の混合溶媒1.8Lに一晩浸漬し、香気成分を抽出した。ろ過・脱水後、常圧下溶媒を約50mLまで留去し、高真空蒸留に供し、不揮発性成分を除去した。得られた香気成分を含む揮発性画分を濃縮後、シリカゲルカラムクロマトグラフィーによる分画を行い、匂いの弱いテルペン炭化水素を主とする炭化水素画分を除き、ニンジンの特有の匂いを発する含酸素画分を分離した。濃縮後、香気成分をGC-MSで分析した。
また、一般的に、含有する全ての化合物が香気に寄与しているのではなく、各香気成分のにおい閾値、含有量、においの質が寄与度に影響することが知られている。すなわち、必ずしも含有量が多いことが寄与度の高さに比例するわけではなく、閾値や相互作用を考慮しなければならない。そこで、実際にニンジンの香気に大きく寄与する成分を希釈分析とGC-MS-Olfactometryを組み合わせ、アロマグラムを作成した。さらに、主要成分の含有量を定量しニンジンの匂いの再現を試み、主要成分の重要性を検討した。
(分析結果)
GC-MS分析の結果、100種類以上の化合物が検出された。すべてを同定することはできなかったが、同定された成分をみると、テルペンアルコールやテルペンエステル類が種類も量的にも最も多く含まれていたが、加熱ニンジンでは顕著に減少した。土臭い、青臭いにおいのbornyl
acetateは、加熱ニンジンでは大きく減少するが、生・加熱ニンジンいずれにおいても最も含有量の多い化合物であった。次いで主要な成分として、クレゾール、オイゲノール、バニリンなどのフェノール類やカロテノイド由来のヨノン関連化合物が顕著な成分として認められた。これらの化合物はいずれも、加熱ニンジンでは増加した。加熱によりカロテノイドの分解が進んだためと考えられる。また、閾値が低く、ごく少量存在するだけでピーマンやニンジンの土臭い、苦みっぽい匂いを感じさせる成分として知られる2-methoxy-3-sec-butylpyrazineが顕著な成分として検出された。また、脂肪酸分解物である飽和および不飽和のアルコールやアルデヒド類も多く、過去の報告でニンジンの特徴香と報告されている脂臭く、青臭いにおいの(E)-2-nonenalがアルデヒド類では最も多い成分で、従来の研究報告とよく対応していた。これも加熱ニンジンの方に含有量が多かった。
次に、上記多数の成分のうちから、ニンジンの匂いに寄与する重要成分を明らかにするため、GCカラム出口における匂い嗅ぎ分析をおこなった。生ニンジンでは50ピーク、加熱ニンジンでは59ピークににおいが検知された。寄与度の高い化合物の抽出には、香気濃縮物を希釈しながら匂い嗅ぎを行う希釈分析を行った。
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