第7章 ピーマンの香りに関する調査
お茶の水女子大学大学院 久保田 紀久枝
4 ピーマン青くさ臭成分の成熟による変化

(1)匂い成分の調製

 生、加熱ピーマンともに、フードプロセッサーで10秒間粉砕後、ただちにジクロロメタンを加え、ホモジナイザーで30秒間磨砕しつつ香気成分を抽出した。ろ過し、残渣に溶媒を加え、超音波層に20分入れ抽出を繰り返し、香気成分を含む有機溶媒層を分離した。100mLまで濃縮後、高真空蒸留に供し揮発性成分を分離した。常圧下、42℃で濃縮後、GC-MSで成分やその含有率を分析した。

(2)機器分析結果:青くさ臭成分含有率の変化

 葉が傷つけられると葉緑体の膜構成成分である脂質から酵素によりリノール酸やリノレン酸が遊離し、さらにリポキシゲナーゼやその他の酵素が働き、炭素数6のアルデヒドやアルコール類が生成され、青臭い匂いが生成されることはよく知られている。ピーマンを口で噛んだときにも細胞が破砕され、葉と同様のルートで青臭い匂いが生成されることが考えられる。生ピーマンをフードプロセッサーで破砕した際にピーマン独特の青臭い匂いが生成された。その成分をGC-MSで分析した結果、図2に示したように、(E)-2-ヘキセナール、(Z)-3-ヘキセノール、(E)-2-ヘキセノールおよびその酸化された酸類が検出された。それらの全香気成分に占める割合を図2にまとめた。緑と赤ピーマンにおいて特に顕著な違いがみられたのは(E)-2-ヘキセナールと(Z)-3-ヘキセノールの含有率の変化である。

 (E)-2-ヘキセナールは未熟から成熟するに従い増加し、赤ピーマンでは最も含有量の多い成分であった。この物質は、青葉の香りではなく、果実様でフレッシュ感を感じるにおいであることが知られている。一方、(Z)-3-ヘキセノールは青葉アルコールとも呼ばれ、青葉を感じさせる匂いを持っており、これが草や葉をもんだときに感じる青臭い匂いの主成分である。この物質は緑ピーマンで多く、成熟すると増えるが完熟した赤ピーマンには少量しか含まれないことが分かった。すなわち、赤ピーマンは官能評価において、緑に比べ草のような青臭さが弱く、パプリカのような匂いが強いと評価されたが、その要因として、青葉アルコールが少なく、果実の香りを持つ(E)-2-ヘキセナールが多いことが一つの要因であると推測された。(E)−2系の物質が多くなるのは、成熟するに従い酵素の活性系が異なることが推察され、それが香気成分生成に影響しているのではないかと考察された。


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