第9章 野菜のおいしさに関する意識調査とタマネギの官能評価
味覚と食嗜好研究所 山口 静子
1 はじめに

 おいしさは食物の選択、摂取を支配する重要な要因であるが、あらためて野菜のおいしさとは何かとなると定義も定かでなく、漠然とおいしさを追求しても発散するばかりである。そこでここでは野菜に対する意識調査を行い、問題にすべき野菜のおいしさの着眼点を浮き彫りにし、その重要さを示唆するためにタマネギを一例として官能評価を行った。

 おいしさはJIS-8144では「食品を摂取したとき、快い感覚を引き起こす性質」とされている。これは工業規格としては有効でも、おいしさの研究においては誤解を招くおそれもある。おいしさが長さや重さのようにモノに備わった性質と解釈されると、それを示す理化学的指標を見つけることがおいしさを科学的に捉えることと思われかねないからである。

 おいしさは人の意識に生ずる感覚や感情であり、味や匂いも同様であるが、それ自身モノに備わっているわけではない。これはおいしさ研究では先ず認識すべきことである。野菜は鉄やプラスチック製品のように一様なものでなく、また食べ方も人の感覚も嗜好も様々である。もし、ある野菜のおいしさが1つの理化学的指標で捉えられると考えるなら、そのこと自体が問題である。指標に当てはまらないものはすべて切り捨てられ、人間は機械に服従することになる。

 野菜も人の好みも時代と共に変化する。そこで、いま求められているおいしさとは何かを探る1つのキーワードとして、「最近の野菜は概しておいしくなった」と思うかどうかに着目した。昔の野菜はおいしかったという年配者は多いが、懐古趣味や気のせいと見なす人もいる。ここではその正否を糺すのが目的ではない。おいしくなっても人の要求水準も高まり、不満は常についてまわるものである。それを明らかにし正当な不満を満たすべく努力することで発展の道が開かれるはずである。そのためにこのキーワードを中心に質問紙調査を行い、測定すべきおいしさの側面を浮き彫りにし、それに基づきタマネギの官能評価を行った。



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