第9章 野菜のおいしさに関する意識調査とタマネギの官能評価
味覚と食嗜好研究所 山口 静子
2 意識調査

1)一般的な傾向
 野菜に対する嗜好度はどの層でも高いが、女性と高年者の方が若干高い。煮物も生野菜の嗜好度も女性の方が若干高く、若い女性は漬け物よりサラダを好む人が多い。香りの強いものやクセのあるものはどの年代でも嫌う人は少ない。

 とくに、「最近の野菜は概して本来の野菜らしさがなくなった」、「最近の野菜は概して味や風味の個性がなくなった」、「最近の野菜の味は概して単調で深みがなくなった」、「このままいくと野菜本来の味や香りや歯ごたえが失われていくことが心配だ」(36)、「もっと野生味のある野菜が食べたい」(12)への同意度が高かった。また、野菜の伝承と品種改良、野菜の甘み化についての問題点も示唆された。以下順次考察する。

2)最近の野菜はおいしくなったか
 「最近の野菜は概しておいしくなった」に関してはそう思う87、どちらともいえない138、そうは思わないが58名であった。「そうは思わない」は高年者に多かった。しかし必ずしも若年者がおいしくなったと思っているわけではなく、「どちらともいえない」が多かった。

 味の深み、個性、野生味(若い男性を除く)の喪失感はどの世代でも感じられていたが、とくに最近の野菜はおいしくなったと思わない人に高かった。若年者はどちらともいえない人の割合が高かった。

 図6と7はこのステートメントに対する賛成度によって回答者をそう思う、どちらともいえない、そうは思わない、の3群に分けたとき、評点の平均値の差が0.5以上であった項目をプロットしたものである。そう思わない人は、「最近の野菜の味は概して単調で深みがなくなった」、「味や風味の個性がなくなった」、「微量成分が薄くなっているものが多いような気がする」、についても強く感じていることが分かる。

 また野菜はおいしくなったと思う人は最近トマトがおいしくなったと思う人が多く、野菜の甘みが強く、香りが少ないものを好む傾向がある。つまりトマトがおいしくなったと思う人は野菜もおいしくなったと思う傾向があるということである。トマトは近年高糖度化、香りの質の変化などによって、品種改良とバラエティ化がもっとも進んだ野菜といえるが、そのことの是非はともかく野菜全体のおいしさのイメージに強く影響を与えていることが分かる。

 また、どちらともいえないと答える人は、多くの項目において野菜がおいしくなったと答えた人の評価と近い平均値を示している。これは若年者や野菜に対して強い意見を持たない浮動票の人は、野菜の変化の波に乗りやすいことを示唆している。

3)野菜の変化
 「新しい品種を増やすよりは、今までの野菜を大切にしてほしい」(15)、「従来の野菜をやたらに変化させないでほしい」(16)、「新しいものよりも伝統野菜を大切にしたい」(20)はいずれの層も高い評点を示し、高年者はより要望が高かった。

4)香り、クセ
 どの層でも香りの弱いもの、クセのないものが好ましいと思われている訳ではない。(19)

5)野菜の甘味化
 若年男性を除いては「最近の果物は甘すぎるものが多い」には賛同者が多く、また「果物は甘ければ甘いほどおいしい」とは思われていなかった。しかし、何気なく買ったトマトが甘いときにはうれしいと感じる人が多く、苺を買うときは甘そうなものを選ぶ、とした人が多かった。しかしもっと甘いトマトを増やしてほしいというわけではなかった。また、野菜の甘みについてはキャベツではもっと甘くして欲しいという人も若干いたが、ネギまで甘くしてほしいとは思われていなかった。甘み化については、上記のように、味の深みや持ち味を重視するか否かと逆相関関係にあり、これについては後にさらに考察する。

6)その他
 マヨネーズ嗜好(48)には個人差が大きく、女性は必ずしも高い嗜好度を持つとはいえない。しかし、醤油と鰹だしへの嗜好度(49、50)は高く、その限りにおいて和食文化のベースは保たれているといえ、今後も和食文化の継続発展が望まれる。



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