第9章 野菜のおいしさに関する意識調査とタマネギの官能評価
味覚と食嗜好研究所 山口 静子
3 タマネギの官能評価

3.2 結果

2)生および蒸し煮での官能評価結果
 蒸し煮は予備実験と本実験では調理した量が異なるために、予備実験で想定したよりやや生っぽい感じであった。生と蒸し煮では、数多くの微妙な質問に対して、調味もしていない辛みや刺激のある試料を4種類も同時に比較することは予想した以上に難しく思われたので、評価の中途で、もし無理ならば、最後の順位だけでもよい、とアナウンスしたが、全問解答した人が生では54名、蒸し煮では51名あり、順位だけ答えたのは前者で4名、後者で6名であった。順位は採用したが、棄権したもの、回答が未完成であったもの10名弱の分は除いた。この結果は熱意と感度と忍耐力をもって取り組んだ人の評価といえる。

 各特性に対する評点の平均値を図11に示す。

 生と蒸し煮ではかなり類似したパターンが得られている。AとB(HとG)はシャキっとしてかたく、CとD(FとG)は甘みが強いとされた。D(E)は辛み、苦味が最も弱く、味の複雑さ、濃厚感、味の力価、深みなどにおいて最も評価が低かったが、好みでは高く評価された。味のしっかり感や濃厚感はA(H)、B(G)が高かったが、甘味は弱かった。Cがまろやかさや広がりを強く感じられたのはこくというより甘みのためと思われる。

 タマネギとして品質のよいと思われる順位の平均を求めると、A、B、C、Dではそれぞれ2.4、2.8、2.5、2.3;H、G、F、Eでは2.8、2.7、2.2、2.4(値が小さい方が上位を示す)で有意差はなかった。図12と13はそれぞれの試料に順位1から4を付けた人の割合を示す。
 僅差ではあるが、生では傾向的にはDを1位とする人がやや多かった。しかし蒸すことで甘味の強いFと同等になった。有機栽培であるB(G)はいずれにおいても高く評価されることはなかった。それぞれの試料を高く評価した人と低く評価した人の理由(掲載は省略)では、いずれの試料も味の深みなどを示す具体的な言葉は少なく、辛みが弱く、甘くて食べやすいものが高く評価されたことが窺える。

 日本食品分析センターによる成分分析の結果については、分析の章で詳しく記されているが、説明の便宜のために表3に示す。
 糖の分析値はC(F)が最も高く、甘味も強いとされたが、D(E)がより糖の多いAより甘いとされたのは、やわらかいことと辛みや苦味が弱いためと思われる。遊離アミノ酸はA、BよりC、Dが少なく、またDは水分も若干多い。フリーアンサーでもDは水っぽく、甘み以外の味が薄いことが窺えた。しかし、タマネギそのものを味付けもしないで食するにはかなり辛かったので、何よりも刺激が少ないことが選択の優先条件となったと思われる。

 この実験結果で最も重要なことは、タマネギの評価が生食やそれに近い条件で評価されると、次に述べるような本来のタマネギがもつポテンシャルが見落とされ、甘味が強く刺激が少なく食べやすいものの品質がよいとされてしまう危険があることを示したことである。


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