第9章 野菜のおいしさに関する意識調査とタマネギの官能評価
味覚と食嗜好研究所 山口 静子
3 タマネギの官能評価

 以上の意識調査から野菜のおいしさには、味の濃さ、深み、野菜本来の持ち味など微妙な味わいが重要であることが分かったので、微妙な味わいという観点からタマネギの評価を行った。この場合に重要なのは評価者である。野菜に関心のない人に微妙な味を問うてもあまり意味がない。そこで、野菜と文化フォーラムの講演会では官能評価セッションを設定し参加者60余名に評価を依頼した。大部分がフォーラムの会員で、野菜の生産、販売などの関係者、大学や研究所などで野菜に関する研究に携わった経験者、雑誌の編集者など、何らかの形で野菜に関わりつつ野菜の勉強を続けている方々で、野菜のオピニオンリーダーの集団といえる。実験は平成21年10月23日女子栄養大学松伯軒の宴会場で行った。

3.1 実験方法
 多くの試料を試食し代表的な以下の4種を選んだ。栽培条件や収穫時期などによって品質は変動するので、この実験の結果がそれぞれ銘柄の特徴を普遍的に示すというわけではない。目的は銘柄が何であれ、好ましいものはいかなるものであるかを知ることである。

 A,B,C,Dは生食の場合で、スライスし5分間水晒したもの、H,G,F,Eはスライスしてスチームオーブンで3分加熱したもの、X,Yはクリームコンポートにしたもので比較評価を行った。記号は調理法によって変えているが、タマネギは同1ロットのものである。

 クリームコンポートの処方は以下のとおりで、女子栄養大学の松伯軒のシェフによるものである。クリームコンポートを選んだ理由は、調理学のベテランの会員が多くの料理を試作した中で、食感の影響を受けず、一様に素材が混合された状態で味が比較でき、本格的な料理らしく、美味であることによる。

 比較する試料は用いるタマネギ以外は同一条件で比較できるよう細心の配慮の下に同時に調製した。

(評価方法)
 評価は約1時間半を費やして行った。6人掛けのテーブルを白いテーブルクロスで被い、各試料はテーブルごとに配られた。評価は、生、蒸し煮、クリームコンポートの3セッションに分け、この順に行った。試料は生と蒸し煮では上記の記号を付けた同じ大きさの白色の大皿に盛りつけて、セッションごとに供し、別に用意した記号を付けた小皿に各自が取り分けて味わった。クリームコンポートは調理の際にミニカップに分けたものが調製された。各セッションでの試料の試食順序は釣り合うように予め割り付けた。ただし順序は最初に箸をつける順を指定したのみで後は自由に食べ比べた。

 質問項目は、生と蒸し煮については、4種の試料についてそれぞれ、食感がシャキッとしている、しなやかさがある、タマネギのにおいが強い、においが揮発し難い(こまかい)、においの質がよい、タマネギの風味が強い、タマネギの風味の質がよい、甘味が強い、辛み(刺激)が強い、苦味がある、こくがある、味が口いっぱいに急速に広がる、味が複雑、味がしっかりしている、濃厚感がある、微量成分が多そう、丸み(まろやかさ)がある、滋養がありそう、味に力価がある、味に深みがある、タマネギとして好みに合う、の21問で、2:そう思うから、−2:そう思わない(反対)の5段階評価を行い、さらに、タマネギとして最も品質のよいもの、2番目によいもの、もっともよくないもの(結局4種の順位をつけたことになる)を選び、その理由を記入してもらった。

 クリームコンポートについては、2種の試料を同時に試食しながら上記の設問の最初の2問と4番目の問を除き、後味がよいを加え、最後の質問は「おいしい」とし、同様に5段階評価を行った。さらに、料理としてどちらのコンポートが優れていると思うかを問いその理由を記入してもらった。

 口直しに適宜飲むために硬度の低いミネラルウオーターを用意した。

(評価者の特性)
 評価者は男性42名女性16名、性別無記入若干名で、年齢層は表2に示す。60才以上がもっとも多かったが、この年代にはフォーラムのベテラン会員で野菜の品質について知識経験の深い人が多かった。中座した人もいるので、各実験の回答者数には若干ふれがある。

 官能評価に先立って、キーワードになる代表質問「最近の野菜は概して本来の野菜らしさがなくなった」などのステートメントに対する上記と同様な7段階評価による同意度と、タマネギの嗜好に関する質問紙調査を行った。


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