●中国山東省(維坊・青島)野菜事情視察研修旅行レポート●
【期間】
2011年10月23日(日)〜26日(水)
【訪問地】
<23日> 中原採種場株式会社中国現地法人
<24日> 寿光農産品物流園(寿光市野菜市場)
元・安丘市商業集団グループ「日本向けねぎ加工場」
維坊得潤食品有限公司(日本向けたまねぎ加工場)
<25日> 撫順路野菜卸売市場
青島ビール工場など青島市内観光
<26日> テーブルマーク株式会社中国検査センター
蔬菜科学技術学園
レポート担当:<23日>白戸啓子 <24日>脇ひでみ <25日>新田美砂子 <26日>領家彰子
<24日>(2日目)
 7:00からの朝食はホテルのバイキングで、中華粥やまんとう各種、水餃子などはもちろん、野菜料理の多彩さが目を引いた。野菜の産地・集積地であることも関係しているのだろうかと思いながら、朝から野菜をたっぷりいただけたのはありがたかった。

野菜たっぷりの朝食バイキング 
●中国全土から野菜各種が集まる寿光市野菜市場へ
 8:00にホテルを出発。出発前に、今回の研修地を現地で手配してくださった李漢卿(Li Hanqing)さんと対面した。李さんは、3年前の上海野菜事情研修旅行の際にお世話になった上海農業科学院園芸研究所の陸世鈞さんの同僚でもあったとのこと(現在は不動産関連の仕事に携わっておられる)。上海での貴重な研修をなつかしく思い出しながら、ご同行いただけることを喜んだ。

 バスで高速道路を約1時間半かけて寿光市野菜市場「寿光農産品物流園」へ向かった。車中では、ガイドの唐合梅さんから野菜や産地情報を中心に、維坊市、寿光市の基本知識を教わる。野菜栽培に適した土地として有名な地域で、政府が指導して、日本だけでなく韓国、ロシアにも輸出、インターネット販売も積極的に行っているそうだ。

 そもそも寿光市界隈は、新しい野菜の種が日本など各地から輸入された際に、山東省での栽培に合うかどうかをテストをする地だったとのこと。1,000種ほどの内500種は成功しており、特にミニトマトは大成功をおさめていると聞いた。山東省としてはにんにくの生産が多く、その内の70%は輸出用。しょうが、ねぎ、とうがらしも山東省産が多い。価格のコントロールも必要で、例えばしょうがなどは、今年は去年の価格の10分の1になったので、産地は掘るのをやめているといった話もあった。

 維坊で有名なのは、ライオンのりんごといわれる緑色の大根「維坊青(イボチン)」で、皮も食べる。やや甘く辛く、りんごのような果物の味わいだとか。その他、なす、ピーマン、ミニトマト、セロリ、ビニールハウスでのバナナ栽培も成功している。

 寿光市は中国の南北の中心にも位置しているところから、大きな野菜卸売市場ができ、山東省はもとより全国各地から野菜が集積して、再び北京などの大消費地に向けて出荷される。各産地では専用車がビニールハウスを巡って収穫物を積み、高速道路を使って卸売市場に集まる。それら巨大なトラックは、国の優遇政策で高速料金を無料にしているという。

 寿光市に向かう高速道路の両側は平野で、はるか遠くまで延々とビニールハウスが連なっている。冬から4月まではビニールハウス栽培、その後は取り払って畑にするが、北向きの場合は年中そのままの栽培だそうだ。また、この研修の3日目に見聞することになるのだが、北側が土塀になっているビニールハウスは初めて見る体裁で、「あれは一体何だろう?」と首をひねっていたものだ。北風を避け、温度管理を容易にするための知恵であることを後に知った。

 この辺りは地下水が豊富で、農業用の水は井戸から引いており、近くにはダムもあるので、水に不自由はないという。

 緑の田園の中に、唐突に高層マンションらしき20〜30階はあるだろう建物群が連なっていたりする。以前の上海近郊でも見た、日本とは異質な光景だ。地方都市であるこの界隈でも散見されることに、中国の発展ぶりがうかがえる気がした。
●巨大な建物群の中に連なる野菜の山々
 いよいよ、大きなぼんぼりのようなものが目印の寿光農産品物流園に到着。

まず、敷地面積133万haというそのスケールの大きさに目を見張った。その中に、巨大な倉庫様の建物が何棟も立ち並ぶ。建物は野菜別になっているらしい。

寿光市野菜市場
 市場の仕事は夜8:00〜朝4:00。私たちが訪れたのはその喧噪が一段落した後だったのは残念だったが、それでもまだ野菜の取引は若干行われていた。巨大なトラックには荷台から溢れんばかりの白菜が山積みされていたり、別の巨大トラックには大根、地面に山積みになった紅芯大根…。

山積みの白菜

紅芯大根
 売買はトラックのまま、そこから必要量をやりとりする。市場の入り口にある巨大な鉄板状の計りで出入りの際にトラック・車やリヤカーごと計り、売買価格の4%を手数料として支払うのは、上海の市場で見た時と同様だ。

リヤカーごと計量
 白菜の場合は畑で予冷されて運ばれ、トラックから投げ下ろすようにして15個単位で赤いネットに入れられる。野菜のネット詰め・梱包作業は主婦年齢の女性が何人かで行っていた。白菜1株3kgで日本円で15円程度。葉重タイプも葉数タイプも相場は同じとか。吉林省から3,000kmを運んでくるとも聞いた。

 大根は1パック24〜25本。車中の話に出た維坊青(イボチン)という緑大根もあった。本物は中まで緑、偽物は中が白いそうで、私たちが興味深そうに見ていたせいか、その場で手で皮をむいてくれ、試食?した。かじると甘く、甘さの中から辛みがジワッと沸いてくる。なるほどりんごのような味わいか…。生や、スライスして炒めて食べるとか。

緑色の大根「維坊青(イボチン)」

 その他、長く大きな冬瓜、紅芯大根、しいたけ、セロリ、十六ささげなどが目に付いた。

 次の棟は、にんにく、とうがらし、さつまいも、ねぎ、紫キャベツ、カリフラワーなど。かつての日本でもよく見たリヤカーに、山積みして買っていく人たちがそこここにいる。ピーマン・とうがらしはシーズンオフのためにそこにはなかったが、売り場は広く、見上げるとブランドや会社別らしき標識がズラッとぶら下がり、シーズンにはそれを目印に買い手が群がるそうだ。


標識がズラリ
 さらに次の棟では、赤や黒、白などの色も形も様々なかぼちゃが、それぞれに分かれて小山のように連なる。巨大な建物内のかぼちゃの山々に圧倒される。「日本かぼちゃ系?」という問いに、「こっちが先」の声。確かにそうだ。宿儺かぼちゃのような長太いかぼちゃもゴロゴロ。犬頭瓜というかぼちゃで、煮ると甘く、まんとうのあんこにしたり、スープにも向くらしい。

 以前の上海研修旅行の際に鍋物に入っていた「香りいも」にも出会えた。京いものような親いもを食べる里いもだ。

山のようなかぼちゃ

香りいも
 その他、大量の赤たまねぎの山も。中国では日本と違い、黄たまねぎより圧倒的に赤たまねぎ需要が大きいとは意外だった。赤たまねぎは大きいので使いでがあり、炒めてもシャッキリしているのが好まれるとか。そういえば、夕食や朝食にあったたまねぎは、この系統の食感だったことを思い出した。

 こうして2時間ほど見て回り、市場を後にした。何棟もの建物に運ばれてくる野菜の総量を想像するだけで圧巻で、それを栽培し、運び、胃袋に納める中国という国のスケールに目が眩むようだった。


赤たまねぎの山
●人気の大テント内レストランで昼食
 市場を出て、当初は寿光市野菜展示会場といって、中国国内だけでなく世界の野菜を展示している会場に立ち寄る予定だったが、オフシーズンのため、そのまま再びバスで維坊市へ。昼食をレストラン「百大・緑州」で楽しんだ。

 ここは最近流行っているという大テント内のレストランで、百貨店の経営。中はとても広く、観葉植物などが繁る温室のような空間に、人数や目的に応じたいろいろなしつらえの食事室が配置されている。私たちもすてきな食空間で、野菜たっぷりの山東料理を味わった。李さんによると、山東料理はしょうゆを上手に多用するのが特徴だそうだ。

巨大テントに見えて、中はレストラン

観葉植物が茂る温室の中に食事室が点在
●日本向けねぎの加工場見学
 昼食後、バスで移動し、午後からはねぎとたまねぎの日本向け加工処理場を見学した。

 

 まずはねぎの加工場。ここは元々、安丘市商業集団グループという国営工場が地方政府に払い下げられたもの。2つの空間の両側に50〜60人の女性作業員がズラッと並び、大量のねぎをシステマティックに処理している。外側の汚い皮をむいて根を小さな鎌で大ざっぱに落とし、もう一度きれいに根を整えて、SMLと分類して5kg単位でまとめて段ボール箱に入れる。泥が付いていてはダメなので、きびしく検品し、0〜1℃の保冷庫管理で低温輸送。1日の出荷量は8〜10トン。ここを出て3日で日本に着くそうだ。


ねぎの加工場
 部屋に1歩入っただけで、とにかく目が痛い! 長くはとてもいられない空間で、大変な仕事と痛感したが、この後のたまねぎの加工場でもさらにその思いを強くした。
●たまねぎを日本に周年供給できる生産地体制
 バスに乗り、続いてたまねぎの加工場へ。そこは維坊得潤食品有限公司といって、100%日本向けのたまねぎの加工をしている。まず、張明興社長から概要をうかがった。

 張社長は年の頃40代前半、元は安丘市商業集団グループ内で日本へのねぎなどの野菜輸出業務を担当していた。2000年頃から、国営だった加工や輸出業務が地方政府や個人に開放されるようになった。2001年、日本がねぎの暫定セーフガードを発動(平成13年4月23日〜11月8日の200日)した2001年ごろから、張さんは独立して、ねぎからやがてたまねぎの加工・輸出業務もスタートさせ、経営は安定した。現在、私たちが訪ねた加工場以外にも、借りているものも含めて3工場をもつほどに。8年前には小麦畑だった界隈の土地の価格は、今や10倍になっているそうだ。

 業務は100%日本向けの輸出。新年の時期以外、52週に渡って毎週出荷しており、年間輸出量は3万〜4万t。年間を通じた安定供給のための生産地体制を整えることが大変だったようで、たまねぎの場合、9月〜翌2月までは甘粛省、3月〜5月までは雲南省、6月〜8月までは地元の維坊市界隈とサイクルができている。品種は牧童、格林。

 3,000qはるかな甘粛省からは列車で維坊市まで運ばれ、その後トラック便になる。甘粛省は元々、赤たまねぎの産地で、砂漠の気候で昼と夜の温度差が大きいため、黄たまねぎも色・質ともにとてもいいものができる。収穫後はそのまま畑で乾燥させているそうだ。

 買取価格は相場より高く設定しており、産地の価格によって出荷価格を決めているが、日本のたまねぎが安くなると中国でも安くなり、その幅は200ドル/t〜600ドル/t。とはいえ、日本では国産の場合、原料だけで40円/kgのところ、中国産は平均27円/kg(C&F)程度で日本に到着するのだから、太刀打ちは難しい。

 張さんの加工場では、皮を除いたむきたまねぎ、さらに芯とりたまねぎを出荷している。むきたまねぎは数量、価格が安定しており、日本着の段階で30円/kg日本では45〜50円/kgで出回る。むきたまねぎは機械で加工するといたみやすいので、すべて人力で行い、予冷2℃で品質管理を徹底している。工場を出荷して1週間で日本に着く。

 たまねぎはアメリカ産のほうが安いが、むいたり、芯を取ったりする加工を施すことによって中国産が成功したと、張さんは胸を張った。日本向けの加工場は多く、競争は激しいが、張さんの4つの加工場で日本向けの1/4量をまかなっているという。日本では、それらは主に牛丼チェーンなどの外食産業需要になっており、それだけに安定供給することを旨としているそうだ。
●100%日本向けの皮むき、芯抜きたまねぎ加工場見学
 いよいよ加工場内の見学だ。入るや否や、ねぎ類独特の強烈な臭いと目の痛み! そして品質管理のためか、寒い。作業は根を切って、皮をエアーで飛ばし、先を切ってサイズ別に箱に入れる。1箱20kg。4人1組の作業に携わるのはやはり主婦層のようで、多い人で月給500元は悪くない報酬と聞いた。

たまねぎの加工場

 それにしても、この臭いと目の痛みは大丈夫なのかと問うてみた。スタッフは慣れているので気にならないし、むしろ中国ではたまねぎは野菜の王とされ、たまねぎで身を浄めるほどで、目の病気にならないしよく眠れると聞いて、彼我の違いに複雑な思いだった。

 場所を移し、むきたまねぎ、芯取りたまねぎを袋詰めにしてチッ素充填し、低温管理している様子も見学した。
むきたまねぎの加工場
 外に出ると、大型トラック荷台いっぱいの溢れんばかりのたまねぎが目に入った。これらが加工され、日本に来て、牛丼やカレーなどのたまねぎたっぷりの一皿になって日本人の胃袋に納まる。近年、外食が信じられないほどの低価格競争になっているが、それを支えている一端を体験することができた。

 17:30、夕闇が迫る頃に加工場を後にして維坊市中心街に戻り、ホテル近くの維坊国際金融大酒店で広東料理の夕食。張社長もご一緒にテーブルを囲んだ。

 素材の味を生かした薄味の野菜料理、蒸し魚などと一緒に、張社長ご提供の地元名産の酒「景陽春」を味わった。景陽春は、フワッと香り高いコーリャンの蒸留酒で、アルコール度数は何と33度! グラスに何杯もとはなかなかいかない私たちに比べ、張社長はクイッと空けては杯を重ねる。しかもその間に、会社に電話しては仕事の指示を飛ばしているらしい様子。ここでも中国という国のタフさを垣間見るような気がしたものだった。

景陽春
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