第2章 野菜のおいしさに関する検討結果
T ニンジンの官能評価と機器分析
1 ニンジンの嗜好型官能評価
<うま味の認知モデル>
 実験から、複雑な食品の味の中でうま味の存在を識別し認知できるためには、味覚感度よりも特性の何に注目するか、つまり気づきの感度を高めることが重要と考えられる。食品からは感覚器を通して評価者の側に無数の感覚情報が入力されるが、実際の食品選択や評価に対して意識して用いられる情報はその中の一部に過ぎない。その中にうま味に関連する情報が入ってこなければ、うま味のイメージは形成できない。どの特性に注意を向けるかには、1つは特性に対して生起する快・不快や好き嫌いの感情(感情評価査定)が関係すると思われる。ニンジン臭さが嫌いな人はそれに注意を奪われて、うま味が示す味の特性までは注意を向けにくい可能性がある。もう1つは知識や食経験など影響を与える。また会話などで、注意を促すことも重要である。そして注意が向けられた特性からうま味のイメージを形成するには、それを助ける象徴的な食品が存在する必要がある。その特性から食品に添加したときにおいしく感じるだしの味に連想が繋がるために、食品に添加したときのうま味のイメージを形成することができ、うま味像を描くことができるものと考えられる(図9)。


図9 食品中でのうま味の概念の形成モデル

 一般にニンジンは甘くてニンジン臭い風味が特徴と思われ、うま味はあまり意識されないが、ここではたかだか閾値程度に存在するグルタミン酸が微量のイノシン酸との相乗作用でうま味が増強されることによって、ニンジンのおいしさを支配していることも示された。しかし、内外の文献をみても、ニンジンの評価項目にうま味を挙げているものは殆どない。もし挙げたとしても、ニンジンの味のなかでうま味物質自身の味を捉えることは難しい。評価者はニンジンの中で示すうま味のイメージを体得しつつ評価しなければならないが、だしの概念が定着していない人がうま味の概念を形成することは容易ではないことも示された。また、ニンジンを好む人の方が好まない人よりうま味の識別力が高く、うま味の強いニンジンを高く評価していることも前報で示されている2)

 これはニンジンの好きでない人の評価に合わせれば、ニンジンのうま味は無視され、長ニンジンのようにうま味があってもその味は無視され、出汁や肉を使っておいしくなるうま味のポテンシャルをもったニンジンは生き残れないことも意味している。よりよい食品の選択・摂取のためにも、だしやうま味への注意力心を高めておく必要がある。



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