タイトル<野菜の学校>
● 2010年度「野菜の学校」 ●
- 2010年9月授業のレポート -


長岡野菜の展示

 今期は「日本の伝統野菜・地方野菜」をテーマに、毎月、一地方の、できるだけその時期の伝統野菜・地方野菜を数種取り上げます。授業は主に、「その地の専門家の講義」、「伝統野菜1種の他地方産やハイブリッド種などとの食べくらべ」、「野菜数種の生・加熱による試食」、「それぞれの野菜を生かした料理の試食」、「受講生の意見交換」で構成しています。

開催日:

2010年9月4日(土)

会場:

東京都青果物商業協同組合会議室

テーマ:

長岡野菜
「神楽南蛮、巾着なす、梨なす、八石なす、あさづき、グリーン銀杏、ずいき、ゆうごう、れんこん、またたび」

【講義】

「地方野菜は宝物」

長岡野菜ブランド協会会長 鈴木圭介氏

 鈴木圭介氏は長岡中央青果株式会社会長、長岡野菜ブランド協会会長として、長岡伝統野菜を見直し、新たな方向性を探る、まさに中心的な存在。多趣味で美食家。料理の腕も素晴らしく、長岡野菜の新しい食べ方を工夫・提案したりもなさっています。また長岡野菜の紹介にとどまらず、食文化全般に及ぶ氏の巧みな話術にはファンが多く、当日の受講生にも大好評でした。

<講義より>

鈴木圭介氏

 長岡野菜の立ち上げは平成10年に遡ります。野菜と文化のフォーラムの創設に活躍し、「野菜の神様」と呼ばれた故・江澤正平さんと、ある会合で出会い、なす談義になったことがきっかけでした。

 江澤さんは「なすは、皮と実のやわらかさとのバランスがうまさの決め手。新潟の焼きなすが日本一」と言われた。私は知らなかったし、長岡巾着なすが当たり前だった私は、なすは固いものと思いこんでいました。そこで、「長岡には固くてうまいなすがありますよ」と言うと、今度は江澤さんがご存知なかった。そこで、友人の会社でなすの試食会を行いました。巾着なすを蒸かす、ソテー、煮るなどして、試食した江澤さんの感想は「すごい! こんななすがあったか!」というもの。さらに「長岡は城下町だから、もっと貴重な野菜があるはず。お前、やれよ」ということになったわけです。これが出発でした。

 江澤さんは当時86歳。東京青果という野菜の卸売会社の常務を経た後、西友ストアの社長として野菜流通の最前線に立ち、他方、農水省の指定野菜14品目の選定にも関わるなど、生産、卸し、小売りのすべてに関わった稀有な方でした。現在、にんじんは一般に洗ってから市販されていますが、「にんじんを洗わせたのは俺。野菜を食べもの扱いせず、商品としてしか見ていなかった」と大反省の弁もよく聞きました。野菜の大量生産、大量流通の幕開けで、地方の卸売会社も合併が進められました。

 江澤さんは、自らの所業の大反省の上、地方野菜にはまだすばらしいものが残っている、地方文化の原点は野菜と方言と思い至り、八面六臂の活躍で、私たちを鼓舞してくれたのです。

 さて、長岡野菜の確立に際しては、種、農家、八百屋が大事と考え、種屋の協力も仰ぎました。ラッキーだったのは、当時の農業改良センターの責任者が米中心ではなく野菜中心の立場だったことです。おかげで速やかに11品目を選定し、八百屋の勉強会を開くところまで一気に進みました。

 「スーパーは巨大な自販機」とは江澤さんがよく言っていたことで、長岡野菜といっても、並べているだけでは売れません。氏・素性・食べ方を伝えられるのは八百屋だけで、もうけるのではなく、もうかるしくみを作ろう、「八百屋こそ文化の伝道者」という江澤思想を勉強会で学びながら、マスコミにも発信していきました。

 順調なスタートを切ったところで、長岡市から応援したいと声があがりました。もうけるためではないことを条件に協議を重ね、長岡野菜ブランド協会を設立する運びになりました。江澤さんからは「ブランド」の名を入れたことを怒られたものです。以後、県と市のサポートもあって100万円事業を3年間実施でき、受講生も1300人を超えるまでになりました。長岡市内の産地を巡る会、長岡野菜を料理して食べる会等々の企画をし、折々にマスコミも取り上げてくれ、ここまでやってきました。

 ただ、食べものというのは保守的なもので、デパートや各種のフェアなどに長岡野菜を出しても、「うまいね」という評価はあっても、売れるまでには至りません。長岡野菜でもうけようとは思っていないので、未だにきちんとした基準は設けていないのですが、このままではなかなか先が開けません。そこで最近は、基準を作り、品目を増やそうといった気運があります。

 今後ももうけに走ることを戒め、地方なりの頑固さを大事にしながら進めていきたいと考えています。

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●この後、鈴木氏から個々の長岡野菜のルーツや特性、食べ方などの紹介がありました(後述)。

●野菜と文化のフォーラムでは、2003年と2009年に会員の地方野菜研修として、長岡の生産者を訪ねる旅を実施しました。神楽南蛮の産地である、豊かな自然に恵まれた山古志村や生産者の様子、最初の旅の直後に起きた地震後の復興ぶりなどを、スタッフの草間壽子さんが映像と共に報告しました。

●東京青果(株)の澤田勇治氏は、長岡野菜の東京市場での動向について話されました。「長岡野菜を知らしめたいと3年間鈴木氏にも足を運んでいただいたが、経済効率の面から難しく、幻の野菜になりつつある。好きな時に好きなだけ食べられる野菜でないと難しく、地方野菜が普及しにくい要因と思われる」とのこと。いろいろな立場の人が、声を大にして情報を発信してほしいとの要望もありました。

●スタッフである管理栄養士の松村眞由子さんからは、神楽南蛮は皮が薄く、種と種の周りの白い部分が辛いので、調理の際には注意が必要なこと(神楽南蛮を触った手で顔などに触れない等)、辛さには当たりはずれがあること、最近出回るようになった加工品「かんずり」の青とうがらしは、この神楽南蛮であることなどの話がありました。

 ☆   ☆   ☆

 今回は食べくらべは行わず、鈴木氏のアドバイスをもとに、長岡野菜の特性を生かした料理や現地の加工品を試食しました。以下に、当日の長岡野菜と料理・加工品、各試食後の主な声を紹介します。
【当日の長岡野菜とその料理】
※各野菜名をクリックすると詳細ページがご覧いただけます。
神楽南蛮 ゆうごう(ゆうがお)
長岡巾着なす・梨なす・八石なす えのもとれんこん
あさづき ずいき
グリーンぎんなん またたび

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 収穫時期が合わなかったために当日は見られませんでしたが、長岡伝統野菜として、鈴木氏から以下の紹介がありました。

その他の長岡野菜

糸瓜
 そうめんかぼちゃともいわれる。全国どこにもある野菜で、一般的には、9月以降しっかり糸になったものをゆでて糸をほぐして食べる。しかし長岡では6月中旬から8月上旬の超若取りを塩や味噌の浅漬けにして食べる。

肴豆(さかなまめ)
 大変香りの高い奥枝豆で、ゆでておいても香りもうま味もとばないという貴重な枝豆。香りが強すぎて人気がなく、畑ごと売られていたほどで、いつの間にか元の肴豆とはまったく違うものに変わってしまっていた。12〜13年前から再選抜して元にもどしつつある。

一寸法師
 肴豆より1週間早く出る枝豆。今やこれがかつての肴豆に匹敵する緑色とおいしさを誇っている。新潟では、さや内の豆が8mm以上は出荷しないが、東京では豆がパンパンに張ったもののほうが喜ばれる。新潟ではそのかわり(?)、一人前丼いっぱいの豆を食べる。どちらも食文化である。

体菜
 11月中旬〜12月中旬。決しておいしい青菜とはいえないが、漬け菜として雪深い新潟では貴重な野菜。雪が降ると青菜がまったくなくなるので、体菜の塩を抜いて煮る煮菜が郷土の味として欠かせない。煮菜は食べたいが漬け菜がないという現状だったので、漬けて売り出したら大ヒット商品になった。幼児体験の根強さと同時に、子どもの頃にきちんとした味覚を育てる大事さに思い至る。

長岡菜
 11月下旬〜12月中旬。体菜よりやや小ぶりで、一説によると白菜との掛け合わせでできたとか。旧長岡市ではもう作り手もいなくなっていたが、せっかく長岡の名が付いたおいしい野菜なので、栽培を復活させつつある。

里いも
 10月下旬〜3月までで、土垂れと大和早生がある。長岡名物ノッペの主役は里いも。勾玉のような土垂れより、現在は丸い大和早生が中心で、ぬめりの強さ・食味は名品と定評がある。

おもいのほか
 10月下旬〜11月。淡いピンクの食用菊。山形の「もってのほか」が知られるが、食用菊の中でもこの「おもいのほか」ほどの食味をもつものはない。どう加工するか要検討中。

白雪こかぶ
 12月下旬〜1月。寒さに当たるので甘みが強く、きめの細かさは抜群で、料理屋などではこれでなくてはといわれる人気を博している。長岡野菜に入れるかどうか検討中。

 さらに、昭和26年に日本で初めて売り出した「オータムポエム」、おでんに入れると味の入りが抜群の「雪だいこん」なども長岡野菜の品目として検討中。

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