賀茂なすは上賀茂・下賀茂地区の農家が代々伝えてきた種がオリジナルですが、現在ではそうした正式な種採り農家はごくわずかになっています。今回スライドでお見せしたのは種採り農家として認定されている方の圃場。種を選抜する視点は農家によって違うわけですが、このように家族経営で代々伝えている種の場合、一貫性が高いと言えると思います。
賀茂なすは元々、上賀茂・下鴨の10ヘクタール程度で栽培されていたのが、最近は種苗会社から種が提供されるようになり、周囲でも作られるようになりました。いろいろな「賀茂なす」ができているわけで、これらを純血の賀茂なすといえるのかどうか、気になっています。
この地を訪ねて、自分なりに推察したことがあります。賀茂なすになぜ秋なすがないのか? 賀茂なす農家はすぐき農家でもあります。秋なすの時季は、すぐきを採るので忙しい。だから、秋なすを要望されても、「種が大きくなってまずくなる」と逃れてきたのではと推測しますが、どうでしょう?
●長岡巾着なす
新潟はなすの作付け面積が広い割りに、出荷量は高知や熊本に劣っています。これは大量のなすを県内で食べてしまうからではないかと思います。それほど、日々の食事になすが登場し、よく食べられています。
長岡で有名な巾着なすは、持ってみるとズシリと重い! 巾着なす作りの名人に聞いたところ、なすは水を好む野菜ですが、巾着なすは水をやらずに時間をかけて育てるのだそうです。通常のなすが、花が咲いてから20日くらいで収穫するのに比べ、巾着の場合は30〜40日かけないとオリジナルの味が出ないとか。本来の巾着なすは、いわゆる巾着の筋がビッシリ入り、葉にも茎にもトゲが出まくっています。横断面を見ると、心室が12〜16もあり、種がたっぷり。ふかす(蒸す)と、この種の部分がトロンとしておいしいのです。ふかすときに皮をむくかむかないかは好みがありますが、1cmくらいの半月切りにして、からしじょうゆでいただくのがスタンダード。果肉が緻密なので、揚げても油が入らず、油っぽくなりません。強いアクが、ふかすとおいしさに変わるのではと思います。
●水なす
水なすは水がたっぷり入っていてこそで、水なす作りの名人は田圃の土地に高畝仕立てで栽培しています。水なすは自根ではなく台木栽培。農作業は明け方4時から収穫したり脇芽を落としたりと始まり、日中は家内作業。名人は最初20粒の種から始め、今の規模にしたそうで、もちろん自家採種です。ラグビーボール大に育てたなす2個からの種で3反が賄えるとか。1軒の農家の審美眼で選んでいく確かさに納得できる気がしました。
泉州水なすの浅漬けといえば、ぬか漬けのこと。このぬか床が独特で、こんぶだしを入れているらしく、直売所ではビニール袋に入れたぬか床で水なすをおにぎりのようにくるんでおけば、1〜2日でOK。手に入った時は、このぬか床を捨てずに、ぜひ活用しましょう(笑)。
水なすをもう一段美しい味わいにした「馬場なす」という、大阪府貝塚市あたりのなすがあります。果皮がやわらかすぎて、とても流通に耐えないなすで、まさに幻のなすです。
●うす皮丸なす
山形庄内のなすで、一般に浅漬けで食べます。これを食べた時、アクの感度はDNAに刷り込まれているのではと思ったことを思い出します。地元のおばさんはアクがないというのですが、めちゃくちゃアクがあると感じたのです。漬けるとアクがおいしくなるのです。巾着なすの時もそうでしたが、なすのアクはおいしさに変化するのでは?というのが、実感です。
※「なすのアクって、何?」という山本氏の島越先生への質問に、「無機質で、酸化すると変色する成分。主にはクロロゲン酸」と島越先生。
なす調理では、切ったら水につけるというのが普通ですが、味が抜けるのではと思うので、自宅ではアク抜きしないで食べくらべています。なす自体にうま味はないので、アクが食感や風味などに影響するのではないでしょうか。
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