タイトル<野菜の学校>
● 2011年度「野菜の学校」 ●
- 2011年7月授業のレポート -
 野菜の学校では、昨期、「日本の伝統野菜・地方野菜」の講座を1年間展開し、大変好評を博しました。今期は引き続き同じテーマで、毎月、昨期に取り上げられなかった一地方の、できるだけその時期の伝統野菜・地方野菜を数種取り上げます。授業は主に、「その地の専門家の講義」、「伝統野菜1種の他、地方産やハイブリッド種などとの食べくらべ」、「それぞれの野菜を生かした料理の試食」、「受講生の意見交換」で構成しています。
開催日:
2011年7月2日(土)
会場:

東京都青果物商業協同組合会議室

テーマ:

信州伝統野菜「八町きゅうり、王滝かぶ」、信州地方野菜など「バイリング、あぎ茸、安曇野のわさび3種、ルバーブ、あんず、セロリ、レタス、アスパラガス」、信州伝統野菜の加工品「赤根大根の漬けもの、戸隠大根のみそ漬け、丸なすのみそ漬け、丸なすのしば漬け、野沢菜の紫蘇しょうゆ漬け、山ほおずきのシロップ漬け」

スタッフ:
スタッフリスト

 今月も先月同様、信州の伝統野菜を紹介するには適期とはいえないタイミングで、しかもこのところの低温で予定の伝統野菜がそろわない事態になり、改めて伝統野菜を調達する難しさを痛感しました。

 とはいえ、予定通りになんとか間に合った「八町きゅうり」を食べくらべのテーマにすることができ、信州産の特徴的な野菜を加えて開催しました。講師の塚田元尚氏のご手配により、信州伝統野菜を漬けものなどの加工品で試食することもできました。

【講義】

「信州伝統野菜」

信州伝統野菜認定委員会副委員長・JA長野県営農センター技術審議役
塚田元尚(つかだ もとひさ)氏

 塚田氏は元長野県野菜花卉試験場場長で、野菜の遺伝資源、育種、生産のシステム化などがご専門。信州スローフード協会の理事としてもご活躍です。

講義内容の詳細はこちら

 ☆   ☆   ☆

●スタッフである管理栄養士の松村眞由子さんは岐阜県中津川市の出身なので、信州へは車で5分、特に伝統野菜の「開田きゅうり」の産地である開田高原はなじみがあるとか。信州の野菜栽培は、自分の家のその日のために栽培しているといったイメージを描くとよいそうです。山国の信州に野菜が伝わってきたルートとして、木地師が運んできたり、京都からの行商が持ち込んだり、「王滝かぶ」が山形の「温海かぶ」に通じるのは領主の国替えに伴った故など、信州の伝統野菜のルーツが興味深かったとの話がありました。

●東京青果(株)の宮坂守文さんからは東京市場の現状報告。震災後、6月は心配されたような単価の落ち込みもなくすんだが、出盛りのきゅうりの相場が下がらないのが不安材料だそうです。例年、福島のきゅうりが出回る予定なので、消費者にはぜひ食べてほしいとのこと。安心して食べられる体制が望まれます。

●野菜調達担当スタッフである果菜里屋(株)の高橋芳江さんからは、今日の食材の説明。きゅうりには白いぼ系と黒いぼ系があるが、黒いぼ系はもうほとんど出回らなくなっている昨今、黒いぼの「八町きゅうり」のように地方には残っていることがおもしろいとのこと。長野県はきのこの出荷が多いが、「バイリング」と「あぎ茸」は長野県おすすめの品種。今回、地方野菜として用意した安曇野わさび3種(「真妻」、「正緑」、「イシダル」)の食べくらべは、大変貴重な体験になるだろうという予告もありました。
 わさびには赤茎系と青茎系があり、赤茎系の「真妻」という品種は大変高価であるだけに、粘りと辛さが独特で、料亭や寿司屋でしか味わえないものだそうです。生わさびの保存方法について、高橋さんが産地で聞いたところによると、軽く水分を含んだ紙に包んで冷蔵庫で1ヶ月、すりおろして薄くのばしてから冷凍もできます。

【食べくらべ】

 黒いぼ系ブルームきゅうりの「八町きゅうり」と、最も普及している「白いぼ系ブルームレスきゅうり」、そして「白いぼ系ブルームきゅうり」を、生と、スライスして2%の塩をし、しぼったもので食べくらべました。

 食べくらべは、もちろん、「おいしい・まずい」の表現はタブーです。各自で食べくらべ、「見た目」「食感」「香り」「風味」+「各自が決める指標」の5つの指標それぞれに評価をし、五角形のグラフに記してから、6〜7人のグループ単位で意見交換・発表をします。


きゅうりの食べくらべ
 食べくらべのコーディネーターであるスタッフの山本謙治さんから、きゅうりの食べくらべに際してアドバイスがありました。食べる部位によって違うので、同じ部位で比べること、皮と実の食感の違いに気をつけること、また食感に注意が行きがちだが、風味の違いにもぜひ注意してほしいとのこと。因みに、山本さんは貴重な「八町きゅうり」を食べたくて、今日を楽しみに参加したそうです。

主な感想・意見はこちら

【当日の信州野菜とその料理】
 予定していた伝統野菜がそろわず、当初の品目と違いましたが、主な野菜を紹介しておきます。
八町(はっちょう)きゅうり 赤根大根
王滝かぶ バイリング
あぎ茸 ルバーブ
その他の信州野菜&料理、加工品など  
※植物分類表記は、系統発生解析による新しいAPG分類体系に基づく
※各野菜名をクリックすると詳細ページがご覧いただけます
【その他、全体の感想より】
  • とても楽しく学ばせていただきました。きゅうりとこんなに真剣に向き合ったのは初めてで新鮮でした。

  • きゅうりの差が意外にあって、おもしろかった。「八町きゅうり」が食べられてよかった。

  • きゅうりもさることながら、わさびの味くらべもおもしろかった。例えれば、「真妻」はちゃんとした寿司屋、他はデパートやケータリングの寿司という感じでした。

  • きゅうりの違いに珪酸が関係していることが参考になった。わさびは何が価格に反映するかがわかった気がする。

  • きゅうりとわさびの2種の食べくらべができ、貴重な機会をいただけた。わさびは本当に辛みや甘さが異なり、驚きです。

  • 信州の伝統野菜、実は知らなかったのですが、数が多く、しかも多様なのにびっくりしました。確かに日本の野菜は画一的で、よくも悪くも同じですね。きゅうりの風味の感じ方が年代によって違う。若い人はブルームレスが普通になっているとか。私はブルームきゅうりの食感がよく、ほどよくきゅうりらしくて好みです。ブルームを売る時は食べくらべをすればもっと売れるのでは? わさびの味、値段の差がはっきり違うことがよくわかりました。

  • 今回の収穫は(1)わさびに種類があることにびっくり。(2)「真妻」のまろやかさ、うまみ、コク。刺身で食べくらべてみたい。(3)きゅうりの食べくらべで、品種を使い分けできることがわかり、参考になりました。

  • ヨーロッパや中国などにおける伝統野菜事情などの事例(市民と行政の協力)について、テーマとして広げて扱っていただきたいです。
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