タイトル<野菜の学校>
● 2011年度「野菜の学校」 ●
- 2011年12月授業のレポート -


滋賀の伝統野菜・地方野菜

 野菜の学校では、昨期、「日本の伝統野菜・地方野菜」の講座を1年間展開し、大変好評を博しました。今期は引き続き同じテーマで、毎月、昨期に取り上げられなかった一地方の、できるだけその時期の伝統野菜・地方野菜を数種取り上げます。授業は主に、「その地の専門家の講義」、「伝統野菜1種の他、地方産やハイブリッド種などとの食べくらべ」、「それぞれの野菜を生かした料理の試食」、「受講生の意見交換」で構成しています。

開催日:
2011年12月3日(土)
会場:

東京都青果物商業協同組合会議室

テーマ:

滋賀の伝統・地方野菜
「日野菜、北の庄菜、万木(ゆるぎ)かぶ、米原の赤丸かぶ、余呉山かぶら、蛭口かぶ、伊吹だいこん、山田だいこん、鮎河菜、秦庄やまいも」

スタッフ:
スタッフリスト
 昨年11月、山形庄内をテーマにした際に、伝統のかぶの多様さを知った私たちでしたが、今回の滋賀も、目を見張るほどたくさんの力強いかぶが勢ぞろいしました。今回の講師・滋賀の食事文化研究会の長朔男氏と滋賀県農政水産部のご尽力あってこその品ぞろえ。長先生の奥様も滋賀の食事文化研究会の活動をなさっておられ、お手製の日野菜のぬか漬け、蛭口かぶの甘酢漬け、山田だいこんのぜいたく煮などを賞味させていただきました。
【講義】

「湖国で生まれ育った野菜あれこれ」

滋賀の食事文化研究会 長 朔男(おさ さくお)氏

 長氏は旧雇用・能力開発機構京都職業能力開発センター所長を退職後、滋賀県文学祭文芸部門委員会委員・随筆部門選者、「滋賀の食事文化研究会」の活動を行っている。共著に『芋と近江の暮らし』(サンライズ出版)他多数。京都新聞社から『近江植物歳時記』、論文には「近江のダイコン〜文献を中心として〜」『滋賀の食事文化(年報)』など。また滋賀県文学祭随筆部門で「お爺さん先生」「そばと石臼」が特選・芸術文化祭賞を受賞。

講義内容の詳細はこちら

 ☆   ☆   ☆

●スタッフの調理責任者である領家彰子さんは、この滋賀野菜の講座の前に滋賀県に出向き、日野菜の栽培の様子を見学してきました。その時の様子をスライドで紹介しながら報告。京都から近江鉄道の一両電車で出向いて日野町下車。山のすぐ脇が産地で、砂地のようだったので、スッと簡単に抜けるのが意外だったそうです。産地では日野菜を漬けもの用に周年供給したい意向で、畝を分けて栽培していたとか。またレストランやすし屋などでは小さいサイズの日野菜の需要も出てきているとのことでした。
(長先生から、日野菜の栽培地は粘土質なので、そこは種採りをする栽培地だった可能性があるというお話が追加されました)
 調理責任者として、今回のかぶの食べくらべや料理の試食について、ひとこと。「用意した漬けものは、長先生の奥様の手作り。産地の漬けものもいただいたので、それを料理に生かしてみました。今回のかぶは本来漬けものにするべきだが、かぶは細胞が壊れない限り持ち味が出ないので、講座前の短時間の調理では無理。塩が沁みたところをぜひ想像して食べくらべてもらいたい。それには、断面を見て、皮の赤や緑がどこまで入っているか、マーブリングの状態、維管束で終わっているのかどうかなどが参考になります。また固さは、果肉が緻密なのか、繊維なのか。そしてかぶ特有のイソチオシアネートの香りもぜひ味わって」

●今回はかぶがテーマということで、山形庄内の食の紹介人・佐藤栄子さんが参加。せっかくの機会なので、庄内のかぶについて少しお話ししていただきました。
 「山形ではかぶを干すことはしないので、今日、そのことを初めて知りました。この時期は、宝谷かぶといって、鶴岡市の月山を下った標高400mくらいのところで焼き畑栽培されるかぶがあります。元々、畑山丑之助さんが一人で守ってきたかぶだったのが、数名で栽培するまでになりました。宝谷かぶは繊維が強く、肉質が固く、辛みがある。漬けものより、焼くか煮るかしたほうが利用価値が高くなります。種子を確保していくには隔離栽培する必要があるので、今年は耕作放棄地で栽培されました。12月4日から販売開始です。庄内のかぶもどうぞよろしく」

●東京青果(株)の宮坂守文氏からは、市場の状況報告。かぶに関しては、東京の市場は小かぶが中心で、青森の赤かぶが若干入る程度。関西は白かぶでも東京の倍くらい大きいものが取引されるので、食文化の違いがわかるといったお話がありました。東京青果でも、かつて近江野菜に取り組んだものの、京都や加賀の伝統野菜のようには成功しなかったそうです。滋賀野菜はやはり関西中心のよう。

●スタッフである管理栄養士の松村眞由子さんからは、今回、かぶの栄養成分などを調べる過程で気づいたことがまず話されました。『日本食品成分表』に日野菜と広島菜の数値が載っているのを見て、これらがメジャーな野菜だったことに驚き、一方で他の野菜に比してなぜこれらの数値が上がっているのか疑問が沸いたとのこと。
 また、かぶの調理法について、元々、かぶは漬けもの以外にも料理がしやすい食材で、皮のままくし形に切り、オイスターソースなどの中華炒めがお薦めとか。今回のかぶはどれも、切るとまな板に包丁の跡がついてしまうほど大変固かったそうで、独特の歯ごたえをぜひ味わってほしいとアドバイスがありました。

【食べくらべ】

 「日野菜」「北の庄菜」「万木かぶ」「米原赤丸かぶ」「余呉山かぶら」を「金町小かぶ」「宝谷かぶ」(山形県鶴岡市)「羽村のかぶ」(当日の飛び入りのF1種、タキイ種苗のスワン)と、生で、横に輪切りにしたもの、縦にくし形に切ったもの、さらにそれらをスライスして塩もみしたものを食べくらべました。


かぶの食べくらべ

 食べくらべのコーディネーターは、スタッフの山本謙治さん。食べくらべは、もちろん、「おいしい・まずい」の表現はタブーです。各自で食べくらべ、「見た目」「食感」「香り」「風味」+「各自が決める指標」の5つの指標それぞれに評価をし、五角形のグラフに記します。いつもは6〜7人のグループ単位で意見交換をしてから発表になるのですが、今月は時間の関係で、意見交換抜きで発表していただきました。

 食べくらべの前に、山本さんからかぶの基礎情報がありました。

 日本のかぶは、一般に西のアジア種と東の西洋種といわれて、系統が違い、いわゆる「かぶライン」で分かれてきました。これは伝来の仕方の違いともっぱらいわれてきましたが、果たしてそうか? 西日本のアジア種はアフガニスタンが原産との説がありましたが、西日本のかぶは日本でしか確認されていない独特の和種らしいということが、近年、種皮細胞のDNAを調べてわかってきたのだそうです。和種のA型と西洋種のB型、さらにABの混合型があるとのことです。

 だいこんやかぶは長く保存できる野菜ですが、塩漬けにして繊維が残るタイプのかぶが、より保存に耐えるために伝統野菜として残ってきたと、今回のかぶの個性的な存在を納得できるお話でした。


主な感想・意見はこちら

【当日の滋賀野菜とその料理】長先生のお話と併せてご参照ください
※植物分類表記は、系統発生解析による新しいAPG分類体系に基づく
※各野菜名をクリックすると詳細ページがご覧いただけます
日野菜 北之庄菜(かぶ)
万木(ゆるぎ)かぶ 米原の赤丸かぶ
余呉山かぶら 伊吹だいこん
鮎河菜(あいがな) 秦荘やまいも
その他
【その他、全体の感想より】
  • 今まで、金町小かぶしか食べたことがなかったので、さまざまな種類を食べくらべできてよかったです。赤かぶ系は皮も厚くて固さもあったのですが、調理によっては煮くずれが少なかったり、歯ごたえがあったりとよい面もあるなぁ、と思いました。

  • こんなにもさまざまな種類のかぶを一度に食べくらべることはないので、勉強になり、かつ楽しめました。赤かぶもさまざまな種類を目にして、山かぶらがこんなにも固くて辛いのには驚きました。

  • かぶの生食は(特に和種)とても辛くて固くて、初めはとまどいましたが、ヤマケンさんの解説を聞きながら、また、長先生のお話を思い出しながら振り返ると、とても勉強になりました。

  • いかに万能種に慣らされているか痛感しました。同時に、固有種は食べ方が限られる(漬けもの等)点、普及は難しいのだろうな、と思いました。生のかぶの食べ過ぎで、最後は胃が痛みました。

  • これだけの種類のかぶを食べられたことは、貴重な経験でした。かぶの調理法も参考になりました。赤丸かぶは漬けものにしてみたいと思います。

  • かぶには和種、洋種があるのは知っていましたが、育っている環境でも味や形にいろいろ特徴が出て、とてもマニアックな野菜だと思いました。今回、初めての参加でしたが、ますます野菜に対する興味が出ました。種を取り寄せて、ぜひ栽培してみたいと思いました。現地で伝統野菜の種を守ること、農家の後継者不足というのは、今後の日本にとって、国や県でもっと重要視すべきだと思いました。

  • いいかぶと出合えました! ありがとうございます。タネを入手して栽培してみます!

  • かぶをこれだけそろえていることにビックリです。宝谷かぶもいただけたことで、くらべる焦点になりました。

  • 食べくらべ、よかったのですが、盛りだくさんのため消化不良気味。

  • 私が居住する地域では、かぶの種類も少ないので、さまざまな種類を食べる機会として、大変勉強になりました。伝統野菜についても、私の周囲では、あるかもしれないのですが、表舞台に出てくることはありません。地元に帰った際は、食べくらべの実践を行いながら、伝統野菜の発掘や、その継承に取り組んでみたいと思います。

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